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Another Talk「美味しい旅本」アナザートーク

『美味しい旅本1』~美味しい余話 Ep.3~
『美味しい旅本』シリーズ3冊目の発行にあたって、これまでのご登場いただいた皆さんの対談から、紙幅の都合でカットせざるをえなかったお話の一部を公開!対談の収録内容の文字起こしから、その語り口などもほぼそのままにお伝えします。

羽黒山参籠所 斎館 料理長 伊藤新吉さん
(インタビュー日:2023年1月16日/対談のお相手:三浦友加さん)

――出羽三山の精進料理
伊藤 ここに食事に来られた料理人の方たちに言われて気づいたのは「もどき料理が少ない」と。精進料理には肉や魚を使わないかわりに、豆腐で肉や魚を表現するといった一つの形、もどき料理があるわけです。出羽三山にもそういった料理はまったくないわけではありませんが、ここでは地産地消はごく当たり前で、昔は気軽に買い物に行けるわけでもなかったし、あるもので食べるしかなかったわけでね。生きるための食事だったわけです。そこからおいしさを求めて工夫して作ってきたということなんですけどね。

「アク抜き」という技術があることで山菜は広く食べられるようになりましたけど、いっぱい手を加えて作るものよりも、身近にあるもののそのままの味を残しながら、おいしく提供することが出羽三山の精進料理の特徴だと思います。この御山の山菜はおそらく日本各地にあると思うんです。ただその食べ方、どうやっておいしく食べるかですよね。昔から伝わってきた食べ方もあるし、違う食べ方をしてみたらおいしかったっていうものもあるし。せっかくの食材があるのでいろんなものに変化させないのも食材に対してもったいないことかなと私は思っていて。「もったいない」っていう言葉が精進料理をここまで変えてきたと私は思っています。昔のものをなくしてしまうのではなくて、新たに付け加えるという形でね。

――現在・過去・未来、生まれ変わりの出羽三山の旅と、精進料理のあり方。
伊藤 山からいただくものですので、生命力が感じられますし、特に春先のものは、雪がやっと解けてきて地肌が見えてきたところにぽつんと見えるので、雪の中で耐えてきたものを、ちょっと頭を出しただけでそれをすぐ摘み取っていただくのは本当に申し訳ないような話なんですけど。春の新しい命をいただくという実感ですよね。
山菜やきのこを「採る(採取)」仕事の人も、根こそぎは採りませんからね。たけのこ採りの本職の人は昔からの教えを守って、いくら豊作でも、毎年ある程度の時期になると採るのをやめると。その上で次の日にもう1回山に入る。何をするかというと、このまま伸びても細くなってしまうだろうということで、今度は採るのでなくて折っていくんです。要はそんなに大きくなれないけど、日差しの妨げになって日陰ができるようなものを折っていくんです。そうすることによって次の年に日当たりが良くなるようにとか。こういう話を聞くと、人が手を加えることによって山も良くなるし、誰も採らなければ竹林になって終わりでしょ。きのこだって誰も手を出さなければ成長して腐って終わり。それが何年も続くとそこにきのこはなくなるから。だから出羽三山の精進料理は、作る人、採る人、食べる人、その三角形の循環の中にまたそれぞれの循環があるわけで、ずっとその関係がうまくいってきたからこのぐらい長く続いてる料理であってね。

――ユネスコ食文化創造都市、鶴岡のこと。
伊藤 なんで鶴岡がユネスコの認定を受けられたかっていう質問は頻繁にされます。鶴岡にはおいしいものがたくさんあるよ、海も山も川もいろんなところから一流のものがとれるよ、でもそういう場所は日本全国どこにでもあると思うんです。いい食材をどう味わうか、そういう昔ながらの食べ方といった伝統食、行事食のようなものがずっと伝えられていることが認定された一番の理由ではないかなと。
我々作り手は、他所の土地で何か料理を作る時に、まずその土地の文化を知ることなんですよ。なぜこういうものを食べるのか、その理由や意味を知って食べたり作ったりすることはすごく大切だと思います。地元にいる人たちが他所の方にこの土地のことを紹介するときに、地元の方が知らなければ他所の方にも伝わることもないしね。

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